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演出ノート。覚え書き。

January 21, 2018

「ピアフという女~いさらい香奈子エディット・ピアフを歌う~」終演。

 

 

今回は、演出のほか、はじめて上演台本も書きました。

いや、書いたというのはちょっと違うか。

 

わたしといさらいさんが、稽古を始めた時、あの物語のエンディングは何一つ決まってなかった。

 

いや…エンディングだけじゃない…

決まっていたことの方が少なかった。

 

●「いさらい香奈子」が「エディット・ピアフの自伝」をベースに語ること

●ピアフが自伝で使っている言葉を、できるだけ、そのまま使うこと

●だいたいの曲順

●そして、わたしたちの出来うる限りの力をもって、ピアフに近づくこと

 

そのくらい。

 

というわけで、

稽古初日、わたしたちの手元にあったのは、

いさらい香奈子・訳詞のピアフの歌と、

ピアフ自伝を抜粋して、切り貼りした文章、

それだけだった。

 

 

まず、わたしたちが行った作業は、ピアフの言葉を疑うことだった。

ピアフは自伝に”こうだった”と記してる。

でも、それは見栄かもしれない。

妄想かもしれない。

そうありたいという願いかもしれない。

 

「こんなこと言ってるけど、それだけじゃないよね。」

「そのために振り回された人間がどれだけいたかね。」

「とんでもない女だわ。」

「美化してるね。」

「なんてことするんだ!」

 

そうやって、ピアフの言葉を疑い、ツッコミを入れ、でも、その言葉を使って自分を飾ったピアフを追いかけた。

ちなみに、ピアフについて客観的に書かれた本もたくさんある。

それらは大いに、わたしたちを助けてくれた。

 

●●●●

 

「ピアフのこういうところ、どう思いますか?」

「ピアフ、こんなことになりましたけど、どう思います?」

 

何度もわたしは稽古場でそう尋ねた。

わたしは知りたかった。

なぜ、いさらい香奈子が、いま、ピアフをやることにこだわったのか。

ピアフに何を求めているのか。そして、なにより、自分自身に何を求めているのか。

 

だから、上演時、

いさらいさんが語りの合間にちょくちょく挟んだ”つぶやき”に似た発言は、

わたしの問いに答えた”いさらい香奈子の言葉”そのままだ。

 

わたしが先に「上演台本をわたしが書いたと言うのは、ちょっと違う」と言ったのはこういうこと。

あの世界にあったのは「ピアフの言葉」と「いさらい香奈子の言葉」と「客観的事実」それだけ。

それを、わたしが書いたというのは、おこがましいというもの。

聞き出した、というのが正解な気がする。

 

そう、

いさらい香奈子が”語り手”だとすれば、

わたしは、ずっと、”聞き手”だった。

 

こうして「ピアフという女」は積み木のように、ひとつずつ重なっていった。

 

サービス精神が旺盛で、人を楽しませる魅力をもった"いさらい香奈子"が、いちばん一番輝くのは、やはり人を楽しませている時。

だから、たくさんの遊び心を散りばめたいとも思った。その作業は実に楽しく、二人で大笑いをしていた。

 

ただ、そうして賑やかにしていも、私にはひとつ頭を抱えていたことがあった。

どうやって、この物語を終わらせるのか。つまりラストシーンだ。

開けた幕は必ず閉じなくてはいけない。始まった物語は、なんらかの形を持って完結させなくてはいけない。

"手探りで作る”とはまさにこういうことだったんだろう。

 

ここだけの話。と、いいながらわたしはこれを公開してしまうのだけど、

当初、ピアフに近づこうと手を伸ばし、身を委ねたいさらい香奈子は、そのまま、あのピアフの世界へ消えていくエンディングを考えていた。

あのコートとショールと帽子を残して、忽然と。

それは、稽古期間の中で、わたしは”いさらい香奈子”がそうしたいと望んでいるように思えたからだ。

わたしは、それはそれでいいと思っていた。人生は色々。生き様も色々。

いさらい香奈子が消え去った最後の絵だけを決め、さて、これをどう繋ぐか、その工程のことを考えていた。

 

だけど、ある日の稽古で、”いさらい香奈子”は突然、抵抗を見せた。

何かが納得いかない様子だった。

 

わたしは聞いた。

「いさらいさん、ここまでピアフをやってみて、このフランスの町から、帰ることができますか?」

彼女は言った。

「うーん・・・もうちょっとだけ、この世界に浸ってたいかな。」

 

「もうちょっとだけ」確かに彼女はそういった。

それは「イエス」だと、わたしは受け取った。

 

そうか、帰るんだ。

そうか、そうか。

わたしは、少し嬉しくなった。

 

別の世界へ消えるなら消えていい。

自分の過去や、背負い込んでるものを全部捨てたっていい。

そうやってでも自分が納得できるように生きていくことが大事だから。

それもひとつの歩みだと思うから。

 

でも、自分で帰るんだと決めた彼女は、素敵だ。

そう思った。

 

「じゃあ、帰りましょう」

 

わたしは、考えていたラストシーンを捨て、

劇中で脱いだ洋服を、また着なおし、自分の手で世界を元に戻してくださいと言った。

 

彼女は全てを現実に戻した。

そして、元に戻った世界に立った彼女は言った。

「ああ、でも、これは持って帰っちゃおうかな。おみやげに。」

グラスを片手に持っていた。

 

わたしは吹き出した。

実に人間らしいと思った。

おみやげ、ね。笑

 

そう、人間は、かっこよくない。

いさぎよくない。

そんな彼女が大好きだと思った。

 

かくして彼女は、グラスを片手に帰っていった。

 

●●●●

 

いさらい香奈子さんが、わたしの手をガシッと掴んだあの夏。

「ピアフやるの、演出して」その言葉ひとつが、わたしにたくさんの経験をくれた。

こんな特殊な作品作りは、演出家人生にそうそうないことだろう。

とくに、わたしは、普段「本を書かない演出家」なのだから。

 

でも、ひとりの女・いさらい香奈子の”聞き手”であった時間は特別だった。

ありがとう、いさらいさん。

 

最後に、

ピアノ演奏・Erinneさん、アコーディオニスト・りょうこちゃん、音楽家・タクミさん、照明・矢口さん、美術の滝さん、わたしの演出的仕掛け(超・無理難題)を全て現実にしてくれた本島さん、お手伝いをいただいた全ての方に、たくさんの感謝を。

またいつか、どこかで関わりあうことができますように。

 

 

 

 

 

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